小説

「ポリチンパン」8

夏が終わり秋がはじまろうとする頃の東尋坊には海からのすずしい風が吹いていた。弟は運転中ずっとレイバンのサングラスをかけていて、(こんなサングラスをかけたりするのだな)と思った。駐車場を出てすぐの商店で海鮮丼を食べ終えると、わたしと弟とは目…

「ポリチンパン」7

供述によればその日人事部から呼び出されたのは十五名だった。呼び出された理由については明らかにされていなかったが、各自予想はついていた。接待で風俗店へ行く計画は実現しなかったし、背任行為を実際に行った者はひとりもいなかったが、呼び出された者…

「ポリチンパン」6

施設から電話があったのは、ユービック・ガールとして試供品の小さな缶をパルコ前で配っている最中だった。ホットパンツのお尻のポケットに入れてあった携帯電話が震えた気がして、左手に持った袋から缶を取り出して通りすがりの人に手渡したあとの右手をポ…

「ポリチンパン」5

いままさに肖像画を描かれている最中であるかのようにかしこまった顔つきで並ぶふたりの姿をみるのは、七五三のとき以来だろうか。全国の神社で撮影されたあらゆる七五三経験者たちの写真や、写真撮影のときの状況についてすべてを記録するのが当ネットワー…

「ポリチンパン」4

新商品開発会議には、開発部だけでなく営業部も代表者が出席することになっていた。営業部長が出張で不在のため、代理で出席することになった彼はコインパーキングに営業車を停め、会議中に居眠りするのを防ぐために自動販売機でユービックを一缶買った。テ…

「ポリチンパン」3

妻が家を出ていったことがきっかけではない、そう男は供述している。妻が出ていってしまったせいでやけになって事件を起こすなんて馬鹿げている、発端は結婚するよりも前にある、社会人になった瞬間からこうなる運命だったのかもしれない、そう銀行員の男は…

「ポリチンパン」2

わたしだけがいつも蚊に刺されていた。日本から取りよせたものらしき渦巻き型の蚊取り線香に火をつけながら、思い出した。そういえば、最近は蚊にさされても痒みを感じなくなった気がする。皮膚が赤くなるだけで、さされたことに気づかないこともあった。体…

「ポリチンパン」1

陽は昇りきって南中し、眩しさに目を細めつつハンドルを握り、(これはロシア民謡だったかな)と考えながらテトリスのBGMをくちずさんではいるものの、途中で立ち寄ったコンビニエンスストアで買って車内で食べたサラダ巻きの海苔が歯に挟まったのを舌で…