かわいい飛来物

おぼつかない英語で書くイーメール、怪文書みたいになっていないといいけどと思いながらそっと送信ボタンを押した。押した瞬間、手紙を入れた瓶を海に放ったような気持ちに一瞬なった。つたない英文が太平洋を漂っていく。波間に浮かぶ透明な瓶が、洋上風力を受けて回る巨大な発電機の群れの横を通り過ぎていく。

台風ってこんな時期まで来るものだったっけ、10月に入ったのにこの暑さはいったいどういうことだろうなんてここ数年同じことを繰り返し思っているような気がする。風災による被害の報告が殺到して損害保険会社は大変なことになっているらしい。暴風による屋根のはがれ、飛来物によりガラスが破損。ガラスを割ることなく、ソフトランディングするかわいい飛来物が自宅の窓に張り付いた。さっそくモモンガ ムササビ  違い で検索する。モモンガ ムササビ  食事 も調べてみる。スーツの内ポケットに忍ばせて、自転車に乗っているとまるで自分が世界名作劇場の主人公のような気分になる。生き物だから仕方がないけど、できればおしっこやうんちはしないでほしい、それはあまりにもわがままで、ぬいぐるみを欲しがる子どもと変わらない。だけど、毎晩イケアで買ったミイラのぬいぐるみを抱いて寝ている息子をみていると、心を落ち着けてくれるそんなパートナーが自分にも必要なんじゃないかと思えてきて、ドライフルーツを多めに内ポケットへと差し入れてしまう。内ポケットのかわいい飛来物が、怪文書を送信するときの鼓動に驚いてまどろみから覚めてしまった。その昔、ブラジル と文字で書きさえすればそこにコパカバーナビーチが現れるように思いながら、どこまでも世界が広がっていく、広げることができると思いながら、文章を書いていたことがあったけど、いまとなってはそれは間違っていたように思う。