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夕方スチャダラパーのライブに出かけて、会場で椅子に腰掛けてビールを飲みながらはじまるのを待っていると、K原先生と奥さんらしき人が入ってきたので、じっとみつめていると、K原先生もこちらに気づいたらしく、わざわざやってきて声をかけてくださった。ライブが終わってから食事でもどうかと誘われて、もうその後は食事のことが気になってしまってライブの最中も上の空だった。それでもライブはすごく楽しかったけれど……
ライブが終わると三人でパルコを出て、大須方面へと歩き出し、矢場とんの向かい側にあるイタリアンのお店に向かった。もともとは、ひとりでライブをみたあと坦々麺を食べて帰ろうと思っていたのに、急にイタリアンになったので胃があわてたような感じがした。とても上品なお店で、ワインのリストをみたけれど、なにがなんだかさっぱりわからなかったのでK原先生におまかせして、食事は黒毛和牛の煮込みなんとかの手打ちパスタというのを注文した。手打ちパスタってどんなのですかと店員さんに尋ねると、山本屋の味噌煮込みうどんみたいな麺ですと言われたのでおもしろそうだと思って注文したら、ほんとうにうどんそのものだった。
奥さんがとてもきれいで素敵な方で、とても楽しそうに二人で会話をしていて、理想的な夫婦を目の前にしてワインを飲んだり食事をしたりするのはとても緊張した。緊張しすぎてワインを飲みすぎてしまったし、何を話したかあまり覚えていないけれど、ライブの感想を一通り話したあと、まだ小説書いてるの?と聞かれて思わず書いてますと答えた。実際には日記ばかり書いて小説が全然進んでいない。最近何か読んだかという話になって金井美恵子の新しいやつとか、と答えたけど、これもまだ第一章の純子が出てくるところしか読んでいない。幸いK原先生も最近は読書する暇がないということで、くわしい話にならなくてよかった。あとは女性作家では多和田葉子が大好きということで意見が一致した。美しい奥さんと、さまざまな原稿を手がける才気あふれる研究者と談笑しながらワインを飲む、金井美恵子の「道化師の恋」に出てくるような若手小説家だったら、なんてロマンティックなんだろうと思うと、酔いがはやくまわる気がした。あるいは「天才マックスの世界」のような感じだと思った。明日になれば、K原先生と奥さんは、美しい奥さんと才気あふれる研究者のまま、一方で若手小説家はどこかへ消えうせて、いつも通りスーパーカブにまたがることになるなんて、残酷すぎる!