犬がいなくなっていた。昨日は地面に突き刺さった杭から犬の首もとに薄いピンク色の紐がつながっていたので飼われ犬のはず。たまたま散歩に出かけただけなのか、それとも逃げ出したのか……市街地の砂漠化を思わせるこの風景の背後にある会社に融資の提案を持ちかけて話がまとまったので、真っ先に犬にその喜びを心の中で報告しようと思っていたのに犬はいなかった。今日は事業性融資だけでなく、住宅ローンのあたらしい案件も発掘できたので実りのある一日。それにしても、30年以上も返済期間があるローンの契約書に名前を記入したって、これから先の30年間がいままでの30年間と同じ長さだという保証はどこにもない。時の流れ方が変わってしまうかもしれないし、逆流しはじめる可能性だってある。それに記入した2文字の苗字がやがて3文字に変ることだってありそうなことだ。野宮から西野宮に、高蔵から高蔵寺に、前崎から御前崎に、平野から平野平に、黒田から石黒田に――30年前の申込人が30年後も同じ人物のままかどうかも怪しい。犬が一日で姿を消したりするのだから、ありえない話ではない。