この恋が31歳最後の恋だと思いつめたものの、あと一ヶ月もすれば32歳になって引き続き恋をするのだと気づいた多美子は窓を開け、「いま気づいた!」と絶叫した。多美子が暮らす五重塔の家賃は月52,000円で、駐車場代も合わせると59,000円になる。のちに74歳になった多美子は、31歳の恋も32歳の恋も覚えておらず、一流醤油メーカーの代表取締役であった父が没落する前に過ごした幼少の頃の思い出の中に生きることになるのだが……