枕元に貼るカイロがあった。それはずっと置いてあったけれど、カイロを貼ろうという気持ちが全然なかったので枕元の風景の一部に溶け込んでしまっていた。そもそも枕元に風景があること自体、部屋が散らかっている証拠なので片付けをしなければいけない。一昨日も昨日も寒かったので、なにか寒さを防ぐ方法はないかと思い、タイツ二重穿きをまず思いついたけれど身動きがとりづらそうなのでやめて、そうだカイロを貼ろうと思ったら枕元に貼るカイロがあった。以前職場でS副長にもらったけれど貼らずにそのまま持ち帰って枕元に放り投げたままになっていたものだと思う。カッターシャツの上から貼ってみると、熱く焼けた砂浜が腰に張り付いているように感じた。架空の砂浜をつま先立てて海へ、モンローウォークしていく、いかした娘はだれ?ジャマイカあたりのステップで……一方足の裏を火傷しながらムーンウォークで娘に迫る男、ふたりの間に割って入るトルソーウォークの紳士、イオンで一万円で購入したスーツの生地の下で繰り広げられる三つ巴の恋模様は誰にも知られていないはずなのに、高級分譲マンションの最上階からビーチバレー選手が狙っている。サラリーマンの腰に出現した手のひらサイズ、小さな長方形の架空の砂浜目がけて正確にスパイクを決めるつもりなのだ。