20時にお客さんと約束ができたので、借換の試算表を持って訪問した。日曜の20時といえば、お菓子を食べながらごっつええ感じをみる時間だったのに、のちに知らない人の家の応接間で初めて会う中年男性相手にいろいろおしゃべりをするようになるなんて、当時は想像したこともなかった。メインバンクがU銀行らしく、今回の住宅ローン借換もU銀行と比較して検討したいと言われていたので、U銀行のホームページをみて金利を確認したうえで10年固定ならうちのほうがメリットがあるということをアピールすることができたけれど、まだ決めかねている様子だった。
U銀行なんて、何度も合併していく中で内部での派閥争いのようなことが起きているに違いない。合併する側とされる側、立場的に弱い派閥に属する男はふと思い立ち、関が原合戦跡をみに行き、何も残っていないただの原っぱを前にして、いま置かれている状況も何年後かには忘れ去られてしまうようなささいなことなのだと無理やりに自分をなぐさめたあとで何事もなかったかのように帰宅したのだったが、そのときに戦国武将の霊に乗りうつられており、翌日の会議中に室内に飾られていた日本刀でまわりの職員を切り殺すという事件が発生。それ以来、U銀行の現金自動支払機から血で真っ黒に染まった紙幣が出るようになり、機械のそばに立っている警備員がそれに気づくと、きれいな紙幣をすこし多めに握らせて素早く血みどろの紙幣を回収しているという。これは噂ではなくまぎれもない事実だということは、日経新聞を普通に読んでいてもわからないけれど、あぶり出しで秘密のニュースが浮かび上がる仕組みになっている。この秘密の伝達方法は古来忍者たちが用いたものであり、現代では三重県下のJバンクが中心となって、J職員向けの忍術研修が行われており、Jバンクの忍者部隊に対抗するため、一部の信金では職員の超能力開発が積極的に行われることになった。