午前中は近所のショッピングモールで一時間、募金活動をした。午後からは名鉄と地下鉄東山線を乗り継いで藤が丘へ行き、髪を切った。ドライヤーで髪を乾かすときに、「最後に冷風に切り替えて、頭皮から熱を逃がしてあげないといけませんよ」という話を聞いて、はじめてドライヤーに冷風という機能がある意味を知った。いままでは、夏場の暑いときにお風呂から出てすぐ熱風をあびると汗をかきそうなので、冷風を首や胸元などにあてて涼をとってから乾かしはじめるという間違った使い方をしていた。それならそれで、ドライヤーの握る部分に(CAUTION!頭皮から熱を逃がせ!)というシールが貼ってあってもいいのではと思ったけれど、もしかしたら気づいていないだけでどのドライヤーにも貼ってあるのかもしれない。
美容院を出たあと、栄へ移動して先週の土曜日に結局買えなかった新しい上着探しの続きをした。マッキントッシュのコートを買おうかどうしようか迷っていたけれど、クレアーレのEDIFICEでいろいろみた結果、キルティング素材のジャケットを購入した。決め手となったのは、藤が丘から栄へと向かう地下鉄の車内で薄茶色のキルティングジャケットを着て団栗みたいなベレー帽をかぶった女の子がいてその格好がかわいかったことと、ジャケットの内側に二匹のビーバーのイラストが描かれたタグがついていて、それに惹かれたこと(タグをじっとみつめていたら、店員さんが「これビーバーっていうブランドなんですよ」と説明してくれた)、3万円台という価格、そしていままではキルティングジャケットというと、普通のジャケットの裏地丸出しで歩いているようでみっともないイメージがあったけれど、キルティング特有のあのモコモコした生地を、珍しい動物の肌を模した仮装だと解釈すると、それを着ることによって違う自分になれる気がして楽しいのではと判断したことが挙げられる。全身の肌がモコモコと隆起している薄茶色のその動物は、イタリア料理店と新聞店との間にある隙間に潜み、料理店から出る残飯を食べて生きていた。唯一の楽しみは、古新聞を盗み出し、テレビ欄を眺めてどんな番組なのか想像することだった。その動物は一度もテレビをみたことがなかった。あるとき動物は、料理専門学校を卒業してすぐにこの料理店で修行をはじめた女性が残飯を捨てるために裏口へ出てくるのをみた。普段は涎をたらしながら食料だけを見つめ、店員がドアを閉めるまで飛びかかってしまわないようじっと我慢していた動物が、そのときだけは女性にみとれて涎をたらすのも忘れていた。シェフ見習いの女性を愛しはじめた動物は、テレビ欄を眺めることもやめてしまった――のちに動物は、故郷の九州の山奥へと帰り、72歳の生涯を終えるそのときまで、ふたたびイタリア料理店を訪れることはなかったが、まだ年若く、毛並みが薄茶色だった頃にその女性と交わした口づけを、オリーブオイルでキラキラと輝いた彼女の唇を、忘れることはなかった。