『サラバンド』(イングマール・ベルイマン監督)

顔のクローズアップをみつめていると、映画の登場人物たちが登場人物本人を演じた再現VTRのような感じがしてきた。スクリーンが顔だけで埋め尽くされるくらいのクローズアップによって細かな表情まで映し出されてしまい、あまりにも細かすぎて映画の、物語の中の登場人物としての本当らしさを超えて(マリアンを演じるリヴ・ウルマン)ではなく(マリアンを演じるマリアン)のように思えてきてしまう。第10章のマリアンとヨハンとがベッドに並ぶ感動的なシーンの後、ふたりを真上から写したありえない写真を持ったマリアンが「その後どうなったか?」とカメラ目線で語りだすという巨匠にしかできない演出によって、ハイビジョンカメラはただのハイビジョンカメラではなくなり、神の視線のようなものにかわり、その視線の前で何度でも繰り返し人生を演じ、いくつもの場面が写真として残される、おお人生!人生というのはおそろしいものだ、勝手に生まれて勝手に死んで、人生という概念から自由になれたならすばらしいのに、人生からは逃れられない……