シャープペンと黒のボールペンと赤のボールペンがひとつになった筆記具を、三種類のものがひとつになっているなんて便利だと思って買う。いつもセブンイレブンで買う。職場のひとはみんな同じものを使っているので、みんな(これは便利だ、どうせ買うなら三種類のものがひとつになっているほうがいい)と思って買っているに違いない。確かに便利だけれど、胸ポケットから取り出してさあ書こうとするときに、ノックしようとして押せず、しまったと思いながらペンの軸の部分をひねるのはいらいらするし、黒と赤とを間違えないようにと思うと視線をペンに集中させないといけないし、ひねりすぎてひとつ戻したりする頃にはペンのことを嫌いになっている。軸を回転させたりしなくても、頭の中で(シャープ!)だとか(ボールペン、黒!)だとか強く念じるとノックしただけで使いたい種類のペンになる筆記具があったら、すごくほしいけれど、念をペンに伝える技術は相当高度なもので、トヨタの関連企業でカー・ナビゲーション・システムの開発をしている研究所が作り出した運転者の念をカー・ナビゲーション・システムに伝えるためのシステムを応用しているかもしれないし、そうなると価格も高くなりそうだから買えるかどうかわからない。先月は残業代が多めについているはずだけれど、それでも手がでるかどうか……安月給なので三種類がひとつになったペンを買うだけでも、ああこのお金でどれだけのお菓子が買えるだろうと思う。そんなペンをS副長に貸すとそのままS副長のものになってしまうことがよくあった。S副長はひとからものを借りると返すのを忘れて自分のポケットや机の引き出しにしまってしまうくせがあった。定規やスティックのりも持っていかれた。みんなS副長になにか持っていかれていて、ものがなくなるとまずS副長の机の引き出しを確認したものだった。そのS副長は転勤していまはもう支店にいない。すこしさみしい。