『松ヶ根乱射事件』(山下敦弘監督)

(人間って悲しくて、可笑しくて、情けなくて、いとおしい)とチラシに書いてあったけれど、ぜんぜんいとおしいとは思えなくて、みんな撃ち殺されてしまえばいいのにと思った。最後に乱射する直前に、登場人物が普通に暮らしている様子を順番にみせていくところで、やさしげな音楽がかかったりして、まるで保険会社のコマーシャルみたいないとおしさの演出がちょっといやだった。映画が登場人物たちを許したり肯定したりするのが気に入らない。
たとえば『叫』で幽霊が(あなただけ許します)と言ったりするけれど、幽霊が勝手に許すと言っているだけで許されることがいいことなのかどうかもわからないし、映画は主人公を許すとか許さないとか言っていなかったのでみていてもいやじゃなかった。『ばかのハコ船』とかはそういういやじゃなさがあったけれど、『松ヶ根乱射事件』はその演出がいやだった。でもその演出がいやだと思ったのは、その最後に至るまでで登場人物たちのどうしようもなさがすごかったからかもしれない。『シンセミア』みたいな終わり方ではなく、ああいう終わり方だったのがいいのか悪いのかはわからないけれど、もしも映画の冒頭にも登場人物たちが普通に暮らしている様子を保険会社のコマーシャルのようにみせるシーンがあったとして、そんないとおしいひとたちがどうしようもなくだめだという中盤があって最後にもう一度いとおしい演出が出てきたなら、いい意味でもっといやぁな気分になれる気がした。
あと、ねずみ捕りを何度も出してきてなにかを象徴させようとするムードもあんまり好きになれなくて、せっかく映画はその場をそのまま、なにも言葉を使わずに撮ることもできるのにもったいないと思ってしまうけれど、べつにもったいなくもないしどんどんなにかの象徴を出して思いのたけを表現すべきだと腕力の強そうな大男に言われれば、その通りですとすぐに答えるだろうし、セクシーな女性から同じことを耳元でささやかれればうっとりもする。