(セールスお断り)というプレートを玄関先に貼りつけている家がある。(セールスお断り)というプレートが掲げられているにもかかわらずインターホンを押すと「セールスお断りって書いてあるでしょうが、あなた字も読めないの!」と怒鳴られる可能性もないとは言えないけれど、実際にはそんな風に怒鳴ることができるひとならわざわざ(セールスお断り)というプレートをお金を出して購入しないのではないか。セールスマンに訪問されるとつい話を聞いてしまい、話を聞いてしまったからには何かを買わされてしまうようなひとが、半ば自分への戒めの意味で(セールスお断り)というプレートを貼りつけているのではないか。そう考えると、プレートが貼られている家を狙って訪問するほうが効果的ではないかとも思える。まるで「ここにはいません!」と大声で叫んでいるようなものだ……小声でそうささやきながらインターホンを押す悪いセールスマンが街を徘徊する。プレートの中には、強調する意味で(お断り)の部分だけ赤字になっているものもあり、そしてその赤字の部分だけが日に焼けて消滅してしまっているものもある。(セールス)とだけ書かれたプレートを前にして、悪いセールスマンも良いセールスマンも頭の中で自ら余白を埋めることになる。(お断り)、と。