お風呂あがりに鏡の前に立ち、すこしお腹に肉がついてきたような気がして、お菓子を食べるのをやめて一週間くらいたち、またお腹がへこんできた。営業車に乗るようになってから仕事中にお菓子を食べまくってきたのがいけなかったのかもしれない。いらいらしてくるとセブンイレブンでお菓子を買い込んでカリカリダブルチーズやジャガビーキットカットなどを勢いよく食べた。助手席にカニチップをのせて左手で袋をさぐりながら運転していたこともあった。もうそんなことはしていない。反省している。また、お風呂上りに鏡の前に立つと、たまに「あれ、乳首ってこんな位置だったっけ?」と思うこともある。もともと男性には乳首は必要ない。触られると性的に興奮するとか、触られないとオーガズムに至ることができないとか、そういう必要性はあるかもしれないが、なくなったらなくなったで肋骨を一本一本なぞられると性的に興奮するとか、なぞられないと至ることができないとか代わりがきいてなんとかなるだろうから、そろそろ乳首がなくなっても別におかしくはない。しかしながら、乳首が移動してやがて消えるということは考えにくい。それはラルフローレンの刺繍がポロシャツの生地の上を駆け回ったというのと同じくらいありえなさそうなことだ。
身体の仕組みについてはよく知らないが、草花を引き抜くと地面に穴があくように、乳首にも根っこのようなものがあり、なくなると胸に小さなくぼみができるのではないかと想像している。幼少の頃、ご飯を食べると食道を通って胃を通って腸を通ってやがてうんちになりますよとか、骨格はこんなふうになっていますよとかわかりやすい絵で説明している本が大好きでよく眺めていたのは覚えているが、乳首の仕組みについてはまったくわからない。胸にあいた小さなくぼみには、失くしてはいけない大切なものをしまっておくとよい。銀行印と実印を胸にしまっておくと失くさないし必要なときにすぐ出せるので便利。箸を持つ手側の胸の印鑑が実印、お茶碗を持つ手側の胸の印鑑が銀行印と覚えておけばよい。いいアイデアだ。みんな一斉に乳首を失えばいいが、ひとりだけ先になくなると目をつけられてしまう可能性がある。(乳首をなくした職員がいる)との噂を聞きつけた人事部秘密警察課の職員が調査にやってくる。営業車からピンク色の粉が検出された。「ああ、それはカニチップの粉ですよ」とはにかんでごまかすしかない。本当のことだから仕方ない。