お前らは全員ぬるま湯につかっている。先週の金曜日の夜、支店長が語るのを聞き黙ってうなづいていた。支店長に言われるまでもなく、今後どんなにきびしい職種に就いても平気で働けるよう自らを訓練していく必要があると感じていたからだ。自分にきびしくするため、まずは菓子を食べながら営業活動をするのをやめた。ささいな尿意を口実にコンビニエンスストアに入り、ついでに菓子を購入するのをやめた。それ以後、尿意をこらえながらハンドルを握ることが多々ある。尿意をこらえることで、無駄を省いた分刻みの行動が実現できることは確かにある。しかしながら、2メートルあるかないかの細い道を営業車で通り抜けなければならないことも多く、そんなときにはやはりおしっこは我慢すべきではないとも思わされる。
家主が自分の家を破壊されまいと、塀の角などに反射板だとか蛍光色の棒のようなものを取りつけているのをたまに目にするが、飾りつけをしたところでどうせぶつかるときにはぶつかってしまうのだから、壁にぶつかりそうでひやひやする気持ちを、心地よいどきどきへと変化させる工夫が地域を豊かにする。一番簡単で効果があるのがラブレター。白い封筒に赤いハート型のシールのラブレターが狭い道の曲がり角に貼られていると、もしかして、とどきどきしてしまう。重要なのは細すぎる道で心地よくどきどきすることなので、ラブレターの中身は愛の言葉が綴られた便箋である必要はなく、むしろ〈ふぐ料理満喫ツアー招待券〉などのほうがうれしい。ハート型のシールが紫色の場合は注意が必要で、ふぐ料理満喫ツアーと思いきや地獄巡りへの招待状が入っている。一度この招待状を手にした者は参加を拒むことはできないと書かれているが、振り込め詐欺と同じで無視しても問題はない。律儀に参加してしまうと、尻の穴に各々の職業にまつわる品物(銀行員の場合は一円玉から順番に五百円玉までを、建築業の場合は細めの角材、など)をねじこまれ、目隠しされて火山火口を歩かされ、ラブレターなんて拾うんじゃなかったと、アイマスクの下で涙を流すことになる。だからといってラブレターなんて欲しくないとは思えない。セクシーな異性から、あるいはセクシーな同性から、意外な方法でラブレターを渡されたい。お風呂あがりに鏡の前に立ち、「あれ?ハート型のニプレスなんて貼ったっけ?」と思い目を凝らすと、肌の色をした封筒がみえてくる。忍者が壁と同じ色の布を被って隠れるあれだ。