初めて住宅展示場へ行った。金曜日に、ハウスメーカーの営業マンから住宅ローン案件を紹介してもらうためにモデルハウスで待ち合わせた。どのメーカーのモデルハウスも豪邸だった。約束の時間に営業マンが現れなかったのでリビングで待たせてもらった。まず中庭が目についた。中庭には行楽地に置いてあるような丸いテーブルと椅子が四脚並んでいた。壁に花瓶などを飾っておくための窪みがあった。台所の調理台が部屋の中央にあるのに驚いた。まったく興味のない画家の展覧会よりも、モデルハウスははるかに興奮する場所だった。とはいえ、まったく興味のない画家の展覧会にわざわざ出かけたことはない。
壁に「ぜひスリッパを脱いで確かめてください」というプレートが貼られていたので脱いでみると足の裏がじんわりと暖かくなった――あれは確かお昼前のお腹が空いてくる時間。なんとなくおしっこがしたいような気もするし、ローソンに寄ってお菓子でも買うかと思いながら毎日訪問する材木店に向かって営業車を走らせていたときだった。つけっぱなしにしたカーラジオからラジオ・ショッピングが流れてきた。マッサージ・チェアの紹介だった。値段は忘れたが、「今回ご紹介するのは」「このお値段にしては本格的なマッサージ・チェアです!」「本格的なものとそうでないものとの違い」「わかりますか」「実は、マッサージ・チェアの一番の違いは、光センサーがあるかないか」「今回のこの商品は肩や背中はもちろん、足元もしっかりとマッサージしてくれます」「それだけではありません、こちらの商品は、なんと、お尻までマッサージしてくれるのです!」「ぜひ一度座ってみてください……声が出ます!」――スリッパを脱いだ瞬間、「あぁ」と声が出た。きっとマッサージ・チェアの件も、嘘ではないはずだ。