『明日へのチケット』(エルマンノ・オルミ/アッバス・キアロスタミ/ケン・ローチ監督)

三人の監督の中でも、特にキアロスタミ監督のパートが素晴らしかった。オルミ監督、ローチ監督のパートは列車の中でなくてもよさそうな気がしたけれど、キアロスタミ監督のパートからは列車で撮影する喜びが感じられた。また、オルミ監督とローチ監督の1部と3部では、教授が秘書の女性によせる気持ちだとか、孫への愛情だとか、サッカー観戦に行く若者たちが難民と出会って社会問題について考えているとか、読み取るべきことがはっきりしているのに対し、将軍の未亡人とその付き添いをするフィリッポという若者が登場する2部は、その未亡人やフィリッポやそのほかの乗客の動作や表情から何を思えばいいのか、すぐにはわからずにただ未亡人が座っているな、とかフィリッポが窓の外をみているなとか思わされる場面が何度もあって、その何を思えばいいのかよくわからないところがよかった。あとから考えると、女の人生が描かれていた、ということもできるような気がするけれど、人生というものは社会問題などとは違ってなにかを思ったり考えたりというよりただ生きてしまってこれからも死ぬまでは続いていくという事実にすぎないので、黙ってそれをみつめるしかないし、そもそも映画はみつめるしかないものなので、おお人生!という感じ。